月と海月A

「海月のムン」　　

七夜月の満月の夜

海月のムンは
目に涙を浮かべながら
じっと月を見つめていました。
「月に帰りたい」
そうなんです。
ムンは子どもの頃
月からこの星の海に落ちてしまったのです。
大人になったムンは
海で自分によく似た姿の海月と恋をして
子どもを沢山生みました。
ところが、ある日、ムンの恋人は
大きな鮫に食べられてしまいました。
ムンは嘆き悲しみました。
でも、ひとりで必死に子どもたちを育てるうちに
少しずつ悲しみが薄らいで行きました。
やがて、子どもたちは大きくなり
無事にムンから巣立って行きました。

「あぁ、美しい」
暗く深い夜の海でゆらゆらと漂いながら
ムンは時間が過ぎるのを忘れて
月を眺めていました。
どれほど時間が経ったでしょうか。

「ムンや、帰っておいで」
月から声が聞こえて来たのです。
「え！？」
ムンは耳を疑いました。
すると、もう一度
「さぁ、ここまでおいで」
そして、月の光はムンを優しく包み込むと
そっとムンを抱き上げ
水面から引き上げたではありませんか！
「あぁ…水がなくては死んでしまいます…」
月の光はムンをどんどん上まで持ち上げました。
「あれ？苦しくない」
ムンは不思議に思いながらも
とても心地の良い感覚に包まれて行くのを感じました。
しばらくすると
ムンは光と共に月に辿り着きました。
目の前に広がる懐かしい風景
「おかえり」
月が静かに微笑みながら言いました。
「ただいま」
ムンも微笑みながら応えました。
月とムンはぎゅっと強く抱き合いました。
ムンは月と抱き合ったまま
溶けて月と一体となりました。

ただいま…

月の雫がまたひとつ
月から零れ落ちて
地球の海に落ちました。